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水戸地方裁判所土浦支部 昭和55年(わ)137号 判決

主文

被告人を懲役三月に処する。

この裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(事実)

一  本件犯行に至るまでの経緯

被告人は、昭和五一年四月茨城県新治郡桜村天王台一丁目一番地の一に所在する国立筑波大学に入学し、第二学群(文化・生物学群)比較文化学類に所属していたが、同五三年行われた同大学の学園祭に際し、学生が企画した催しを大学当局が拒否したことに疑問を抱き、学生の自由な運営管理にかかる学園祭を持つには集会やビラの配布等の許可制に関する学内規則を廃止させなければならないと考えるに至った。又、被告人は、同年一二月行なわれた茨城県会議員選挙に際し、多数の同大学学生が犯した公職選挙法違反事件について疑問を抱き、大学当局に説明を求める運動に参加した。被告人は、同五四年六月学生の自主的学園祭の開催を目的として結成された学園祭実行委員会に実行委員として参加し、同年一〇月大学当局が学園祭に関し課外教育活動の一環として顧問教官制、内容審査制の方針を明らかにするや、これに反対し、同月二三日から一一月二日までの間に行われた学生の無許可集会に参加し、同月二〇日、いわゆる三浦学類長事件に際し、同人の乗車した自動車の発進を妨げるような坐り込みを行った。大学当局は、同年一二月ころ、学生らの学則に違反する行為について懲戒に付すべく、発議、調査等規則所定の手続を進めていたが、被告人は同月中旬ころ学生の有志によって結成された反処分連絡会議のメンバーとして処分反対運動に参加した。同大学学長宮島龍興は、所定の手続を経て、同五四年三月一三日、被告人に対する六か月の停学処分を含む学生一八名の懲戒処分(無期停学七名、停学六か月二名、同三か月四名、訓告五名)を決定し、同大学学生の表彰及び懲戒に関する規則第四条の「学生の懲戒は、処分書を交付し、かつ学内に公示して行うこととする」旨の規定に基づき、右処分を公示するため、第一ないし第三学群、医学及び体育芸術学群の各事務区の学生向け掲示板に処分内容を記載した告示書を各一枚掲示すべく、大学職員に命じ、右告示文を白紙に黒書したものを青焼きのリコピーで一五枚作成させ、翌一四日朝各事務区職員に予備の文書を含めて各三枚を交付させ、同日一二時ころ、前記五か所の学生向け掲示板に各一枚の告示書を掲示させた。被告人は、大学当局の動きから本件処分を予想し、その手続に疑問を抱き、処分の手続が非公開の場で進められることを不当と考え同日本部棟前で開催される予定の全学クラス代表者総会世話人会主催の抗議集会に参加すべく大学構内で待機していた。そして同日一二時ころ本件告示文書が掲示されたことを聞き、その内容を知るべく本件現場におもむき、本件告示文書を見るに至った。そして、本件文書を見ているうちに、とっさにこれをはぎ取って前記抗議集会に持参し、大学当局に対し本件処分の不当を訴えようと考え、次のような行為を行った。

二  罪となるべき事実

被告人は、昭和五五年三月一四日午後〇時一九分ころ、前記筑波大学第一学群C棟二階学生担当教官室前フロアーにおいて、同所に設置されている第一事務区学生担当掲示板に同大学が掲示した被告人外同大学学生一七名に対する懲戒処分の内容を記載した同大学学長宮島龍興作成名義の同日付「告示」と題する縦約六〇センチメートル、横約八四センチメートルの文書をとめてあった画びょう九個のうち下部をとめてあった四個及び両横をとめてあった各一個を手で取りはずしたうえ、右文書を両手で持って下方に引っ張ってこれを同掲示板からはぎ取り、もって、公務所の用に供する文書を毀棄したものである。

三  本件犯行後の情況

本件当時、同大学構内には、学生の処分に対する反対運動を予想した大学当局からの要請で警備に出動していた警察官がいたが、被告人の前記犯行は終始現場にいた警察官によって目撃され、被告人がはぎ取った前記告示書を軽く二つ折りにして左脇に抱えて二、三歩歩んだ時点で逮捕され、右文書は押収された。そして、間もなく、右犯行を知った大学職員によって予備の告示書が前記掲示板に掲示された。被告人は、同日以降毎日捜査官によって取り調べられたが、同月二三日までは、本件犯行について黙秘し、捜査は進展しなかったが、同日、被告人の両親、大学学生課職員及びその知合いの弁護士が被告人と面会して供述を説得した結果翌二四日本件犯行のすべてを自白し、同月二五日本件公訴が提起された。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人の判示所為は、刑法二五八条に該当するので、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役三月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により、全部被告人に負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人の主張

1  公訴棄却の申立て

弁護人は、本件公訴の提起は刑事訴訟法二四八条に定める検察官の訴追裁量権の濫用による違法なものでその手続が無効であるので、同法三三八条四号に該当し、公訴棄却の判決がなされるべきであると主張する。すなわち、

(一) 本件は、以下の諸事情から不起訴相当の事案であるのにこれを起訴したのは訴追裁量権の濫用である。

(1) 被告人の所為の軽微性

被告人の本件所為は、後述のとおり、公文書毀棄罪の構成要件に該当せず、仮に該当するとしても、全く実害のない軽微なものである。

(2) 行為の動機、目的

被告人の本件所為は、計画性がなく、又被告人には本件文書を毀損もしくは隠匿する意思が全くなかった。

(3) 本件所為の背景―大学当局の違法行為

筑波大学当局は、創設以来、学生に対し、厳しい管理を行ない、基本的人権を抑圧し、その管理の過程で大学職員により学生らに暴行さえ加えてきた。又、本件文書の告示内容である懲戒処分は、その前提として許可制が憲法に違反し、懲戒該当事由が存在しないし、懲戒手続を定めた規則に違背するうえ、懲戒処分権限を濫用、逸脱した無効のものである。被告人の本件所為は、このような大学当局の学生に対する違法行為に対抗する学生の自主的活動の一環として位置付けられるべきものであるから、本件所為を起訴することは、大学当局の学生管理体制の強化に違法に加担し、大学の行った数かずの違法行為を容認し、一方にのみ偏した結果をもたらすことになる。

(4) 学生の選挙違反事件との均衡

昭和五三年暮の茨城県議会議員選挙に際し、公職選挙法違反事件に問われた筑波大学学生一四三名が全員起訴猶予になったのに、同じ筑波大学学生である被告人のなした本件のみが起訴されるのは均衡を失し、法の下の平等にもとるものである。

(5) 以上の次第で、本件は、仮に構成要件に該当するとしても、到底三月以上七年以下の懲役刑のみを法定刑に定めた公文書毀棄罪として起訴されるべき事案ではない。

(二) 本件起訴の目的

本件起訴は、本件所為の重大性に着目したものではなく、本件所為のもつ自主的活動を求める学生の運動を規制する目的で行われたものであって、それ自体政治的意図に基づくものである。

捜査当局は、あらかじめ学生の逮捕によって学生運動を抑圧しようと考え、多数の警察官を学内に配備し、本件行為現場に数名の警察官を配置し、被告人の本件行為を目撃しながら制止せず、その行為の完了を待って、本件逮捕に至ったものである。

又、その後の取調べにおいても、本件に関する取調べをしないで、専ら転向を強いるのみであった。

そして、これに引き続く本件起訴は、被告人に対する思想の変更のみならず学生の運動全体に対する見せしめを目的としたものであって、このことは、水戸地方検察庁土浦支部長が、本件起訴の当日、新聞記者に対し、「選挙違反は偶発的事件だったが、今回の事件は筑波大での一連の学生運動の一つとして生れ出たもので、将来にも問題を残し、その背景には無視できないものがある」と述べたことからも明らかである。

(三) 以上のとおり、本件公訴の提起は刑事訴訟法二四八条に定める訴追裁量の合理的範囲を逸脱した違法無効なものであるから同法三三八条四号により、公訴棄却されるべきである。

2  無罪の主張

弁護人は、被告人の本件所為は、公用文書毀棄罪の構成要件に該当せず、仮に該当するとしても、可罰的違法性に欠けるか又は超法規的違法阻却事由が存在するから、被告人は無罪であると主張する。すなわち、

(一) 本件文書の公用文書性

本件文書は、公文書毀棄罪によって保護に価する公用文書とはいえない。

すなわち、本件文書は、青焼きのコピーにすぎず、署名押印に欠け、容易に代替できるものであり、しかも当日学内五か所に本件文書と同一内容の文書が掲示されていたから本件文書が存在しなかったとしても何ら告示内容の学内の公示に支障をきたすものでないので本件文書は財物性、公用性に欠け、公文書毀棄罪の客体たりえないものである。又、前記のとおり告示内容の懲戒処分は違法かつ無効なものであるから、形式的にも内容的にも重要性を欠き、公文書毀棄罪の要求する公用文書に当らないので、被告人の本件所為は公文書毀棄罪の構成要件を充足せず、被告人は無罪である。

(二) 可罰的違法性の欠如

以下述べるような本件の特質を考えれば、被告人の本件行為は可罰的違法性を欠くものであるから被告人は無罪である。

(1) 本件行為の軽微性

前記のように、本件文書は単なる青焼きのコピーであって、代替性が強く、又本件行為によりその本体に物理的損傷は加えられていない。しかも、学内に対する懲戒処分の公示は他の掲示板に掲示された同一内容、同一形態の文書によって十分に果たされたのみならず、本件直後に本件掲示板に掲示された告示文書によっても公示の効力は維持されているのであり、被告人の本件行為は全く実害のないものであった。

(2) 保護さるべき法益の欠如

本件文書の内容をなすのは被告人をはじめとする学生一八名に対する懲戒処分であるが、右処分は違法な処分であって何ら効力を有しないものであり、かかる違法な処分の学内公示の用を果たす本件文書は、刑事処罰による法的保護に値しないか、もしくは極めて価値の乏しいものである。

(3) 大学当局の違法行為、違法処分との対比

筑波大学は創設以来、学生に対して、極めて厳しい管理体制を敷いて、学生の集会をはじめ学内における思想表現の自由を一方的に剥奪し、学生の基本的人権を抑圧してきた。

そして、本件文書の内容をなす懲戒処分もまたその例外ではない。むしろ、これまでの学生抑圧体制の集約として、違法な処分をもって、学生全体をどうかつし、大学当局に従順でない学生への報復を企図したものと言ってよい。

本件は筑波大学当局の行ってきた学生に対する数々の違法行為、違法処分の累積とこれに対する学生側の抑圧からの解放、人としての自由、学生の本来享受すべき人権の主張との対抗関係の中に生起した事件である。

本件を処罰をすることは学生の受けた著しい抑圧に対する抗議活動に付随してなされた軽微な行為を処罰することになる。

(4) 本件行為の動機、相当性

本件当日被告人を含め反処分の学生らは筑波大学本部棟前で懲戒処分に反対する集会を予定していた。本件行為の直前まで被告人自身この抗議行動に参加する準備を進めていたことを考慮すれば、被告人の行為は客観的にみて、この抗議行動と切り離せない、抗議活動の一部分をなす行動であった。

主観的にみても被告人が本件文書を取り外したのはこの集会参加者に処分内容を周知させる目的に出たものであって、抗議行動の一環として意識していたことは明らかである。

本件行為は処分に対する抗議行動の一部分としてとらえた場合、とうてい社会通念上相当な範囲を逸脱したものとは言えない。

(三) 超法規的違法性阻却事由の存在

本件は可罰的違法性で論じたところと同じ理由で、違法性の判断においても、処罰すべき程度の違法性を具備せず、超法規的に違法性が阻却されるから、被告人は無罪である。

二  当裁判所の判断

1  公文書毀棄罪の構成要件該当性について

弁護人は、その公訴棄却論及び無罪論の前提として被告人の本件行為が公文書毀棄罪の構成要件に該当しない旨主張するので、まずこの点について判断する。

(一) 本件文書の公用文書性

刑法二五八条により保護の対象となる「公務所ノ用ニ供スル文書」とは、公務所において現に使用し又は使用する目的で保管する文書を総称するものであって、それが原本であるか否か、署名押印、代替性を有するか否か、記載内容が有効であるか否かを問わないと解すべきである。

本件文書は、前示のとおり懲戒権者である筑波大学学長が同大学学生の表彰及び懲戒に関する規則四条の定めにより懲戒の公示方法として大学職員に命じて作成掲示させた文書であって、現に学内の公示の用に供していたものであるから、刑法二五八条によって保護されるべき公務所の用に供する文書に当るものということができる。

弁護人は、本件文書は、コピーにすぎず、代替性があり、しかも、学内の他の場所にも同種の文書が掲示されていたので本件文書の公用性はない旨主張するが、前記認定のとおり、本件告示書は、各事務区でそれぞれ掲示するため、一枚の白紙に黒書したものを青焼きのコピーとして作成したものであるが、それは作成方法に過ぎず、当時、第一事務区学生担当掲示板に掲示されていたものは本件文書以外になかったのであるから、本件文書が公用に供されていた文書そのものであることは明らかであって、単なる公用文書の写しではない。又、他の事務区に同種の文書が掲示されていたからといって本件犯行現場である第一学群の事務区に掲示された本件文書の公用性に消長をきたすものではない。

弁護人は、本件文書の記載内容である懲戒処分が無効であるから、本件文書は法的保護に値しない旨主張するが、仮に記載内容が無効であるからといって本件文書の公用性がなくなるものではないので、弁護人の右主張は失当である。

(二) 毀棄行為

刑法二五八条にいう「毀棄」とは文書の本来の効用を毀損する一切の行為をいい、必らずしも物質的壊滅を要するものではなく、公務所が現に使用している文書を本来の用に供することができない状態に至らしめた場合は本条にいう毀棄行為に当たるものというべきである。

本件は、前記認定のとおり、公示の用に供されていた本件告示文書を、掲示板から取りはずし、公示の用を阻害するに至ったものであるから、同条にいう毀棄行為に該当し、被告人にその故意があったことは明らかである。

(三) 以上の次第で、本件所為が公文書毀棄罪の構成要件に当らないとする弁護人の主張は失当である。

2  公訴棄却の申立てについて

弁護人は、本件は不起訴相当の事案であり、本件起訴は、学生運動を規制する政治目的でなされたものであるから刑事訴訟法二四八条に定める検察官の訴追裁量権の濫用による違法無効なものであるから同法三三八条四号に該当し、公訴棄却さるべきであると主張するので以下この点について判断する。

検察官は、現行法制のもとでは、公訴を提起するかしないかについて広範囲な裁量権を認められているのであって、公訴の提起が検察官の裁量権の逸脱によるものであるからといって、直ちに無効となるものではない。しかしながら、右裁量権の行使については刑訴法上種々考慮すべき事項が列挙され、検察庁法上検察官は公益の代表者として公訴権を行使すべきものとされ、さらに刑訴法、刑訴規則上刑訴法上の権限は公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ誠実にこれを行使すべく濫用にわたってはならないものとされていることなどを総合して考えると、検察官の裁量権の逸脱が公訴提起を無効ならしめる場合のあることを否定することはできないが、それは、たとえば公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られるものと解すべきである(最高裁昭和五五年一二月一七日第一小法廷判決参照)。

ところで、弁護人は、本件は不起訴相当の事案であると種じゅ主張するが、被告人の本件所為は筑波大学学長が学生に向けて現に公示していた告示書を掲示板からはぎとるという事案であってその罪質は必ずしも軽くはなく、被告人は右文書を抗議集会に持参するためこれを行ったものであるから、たとえ物理的損傷を加える意思ないし隠匿の意思がなかったとしても、これが犯情に影響を与えるものではない。弁護人は、本件行為の背景として大学当局の違法行為を主張するが、被告人の本件違法行為と対比して考えなければならないような大学側の違法行為を認めるべき証拠はない。又弁護人の主張する被疑者全員が起訴猶予になった公職選挙法違反事件については、犯罪の軽重のみならず、各被疑者の一身上の事情、犯罪の情状及び犯罪後の情況等本件と全て同一であるとはいえないので、右事件の被疑者が本件被告人と同じ筑波大学の学生であったからといって、本件被告人に対しこれと同一の処分をしなければ均衡を失するということはできない。そして、本件全証拠を検討しても、検察官が学生の適法な運動を弾圧する意図をもって本件公訴提起をしたものと推測すべき点は認められない。

以上の次第で、本件起訴が訴追裁量権を著しく逸脱したものとはいえず、まして本件公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合にあたるものとはいえないので、本件公訴の提起が無効であるとの弁護人の主張は失当である。

3  可罰的違法性の欠如、超法規的違法阻却事由の存在について

被告人の本件行為の対象となった文書は、懲戒処分の告示という大学における重要な作用に資するものであり、しかも、被告人は右処分に対する抗議集会に持参するためという明確な目的をもって右文書をはぎ取ったものであるから、被告人の本件行為が軽微であるということはできない。そして、本件文書の告示内容である大学当局の懲戒処分の有効無効が直ちに本件文書の保護法益の存否に関わるものではなく、又、被告人の本件違法行為と対比して考えなければならないような大学当局の違法行為は見当らないことは前示のとおりであり、仮に、被告人において、大学当局の被告人ら学生に対する行為を人権侵害、学生運動の弾圧と受けとめ、本件懲戒処分の内容に不服があったとしても、他の適法な手続による救済手段をとることなく、処分を公示しているにすぎない本件告示文書を毀棄するという行動にでることは社会的に許容されるものではなく、正当なものとはいえない。

以上の次第で、被告人の本件所為が可罰的違法性を欠如し、あるいは超法規的違法阻却事由に当るとする弁護人の無罪の主張は理由がなく失当である。

(量刑の事情)

被告人は、判示のとおり、一般の学生に対して掲示された筑波大学学長名義の告示書をはぎ取り掲示の用を阻害したものでその刑責は決して軽くはなく、しかも公判廷においては専ら大学当局の非を上げ、本件行為の責任について充分な反省の態度がみられないが、本件犯行直後逮捕され、その後大学の職員によって代りの告示書が掲示され実害は比較的軽微であったこと、しかも大学当局者においてはその後教育的観点から寛大な処置を望んでいること、被告人の本件犯行は計画的に行ったものではなく、大学当局に対する不満、抗議の過程で、法遵守、手段の相当性に関する意識が薄れ、本件処分に反対の気持から偶発的に行ったものであり、捜査段階において自己の非を認めていたことから判断すれば、本件行為によって周囲に与えた迷惑その他自己の行動が思慮に欠けたものであることを内心充分理解しているものとうかがえないでもないこと、被告人は本件後復学して勉学に専念し、大学を無事卒業し、本裁判が確定すれば就職等を考えると述べていること、被告人には前科前歴がなく、又、被告人の幸福を願う両親に対する孝心がうかがえることなど諸般の事情を考慮すれば、主文のとおりの刑を科したうえ、その執行を猶予することが相当である。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 若林昌俊 裁判官 松丸伸一郎 長谷川誠)

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